ラファエロとか好きだからー

http://d.hatena.ne.jp/n_euler666/20071115/1195113996
にて返信が。まず心の叫び。

確かに私も多少絵を描く人間だし,彼らの描く絵にそれぞれ(微妙な)違いがあることは見て取れるし,絵師の判定も結構できると思っている.しかし,その微妙な差を個性とか作家性といったものとして認識できるか?と言われれば,できない.

俺は全然絵を描かない人間ですが、みつみと大槍と中央東口は「微妙な差」ではないと思うなぁ。あなたはエロゲが没個性だという前に、もっとエロゲに触れるべきだと思う。


えー、気を取り直して。

みやま零氏の表現を使うならば,同じエンジン,決められた排気量,定められたプロペラの中で鎬を削っているゲンガーと,宇宙旅行を実現させているスペースシャトルと,地上最速を目指しているF1と,なんであんなものが海に浮かべるのか不思議な豪華客船と…の違いで個性を争っている作家とでは明らかに違うだろう.

そして,前者を主に消費している今のオタクと,後者を主に消費していた昔のオタクとでは,違いがあるだろう…という話である.

みやまさんが言ってるのは、構造の違う「漫画」(全体)と「エロゲ」というフィールドを単純に比較するのは、おかしい、という話です。
そしてeuler_666さんは「昔の漫画」と「今の漫画」の比較はしてないので、その結論は、論拠が全く足りていません。
今の漫画は、別に判子絵で出来てないし、例えば80年代の漫画以上に多様性があると思いますよ。

しかし,美術史については詳しくないが,この均一化・没個性化することが評価されていたのは,個性だとか,自我だとかが”発見”される前の話なんじゃないか?とにかく,評価基準やその背景にある考え方が違うのだから,同じような評価が過去に行われていたからといって,それを現代に持ち込んで通用するとは思えない.(若しくはその評価が現代でも通用することを検証しなくてはならないと思う.)

念のために言っておくと、「均一化・没個性化」自体が評価されてるわけじゃありません。
ラファエロが評価されるのは「心に響く絵」を追求していったら、一定の型に収まったというだけで、どんな絵でも判子絵にすれば受けるというものではないのです。


で、例えば、今でもラファエロの絵は美しいし、シェークスピアは面白いし、第九を聞くと感動する。
それらは別に近代的価値観のせいで無価値になったか、というと、全然そんなことはないですよね。
ほら、現代にも立派に通用するじゃないですか。
そして、それらが今でも面白いとするなら、それらのフォーマットに基づいた作品が受容されても当然でしょう。「個性とか作家性」の観点からすると、それらは二番煎じで没個性かもしれないけれど、だからといって、無価値なわけじゃない。
というかですね。
「個性とか作家性」を最上に置くのはある種の評論家の主張なのであって、それが一般的な価値観になったことは一度たりともないのですよ。

昔のオタクは現代式な評価法で作家や作品を評価しているが,今のオタクは近代以前の感性で作家や作品を評価している

わりと歳喰ったオタクのつもりですが「それはない」と断言しておきます。
昔っから絵柄の流行はありましたし、オタクってのは心が狭く、快楽原則に忠実なものでした。
オタクが少数派だったから、オタクの趣味が先鋭的、個性的に見えただけです。

「面白い」ということ

ツッコミばかりになってきたので整理。何が言いたいかというと要するに「新しいものを評価することは古いものを否定することではない」ということです。


誰かが新しい試みを行い、新しい面白さを発見した時に、それを受容できる心の広さ、アンテナは備えていたいと思うわけですが、だからといって、旧来の作品がつまらなくなるわけじゃないんですよね。


作品の面白さには、一定のフォーマットがあります。例えば、ギリシャ悲劇が現在も面白いように、この面白さのフォーマットには、かなりの時代を超えた普遍性があります。
個性を追求するのは良いのですが、新しいこと、これまでにないことを唯一の価値観とすると、このフォーマットを全否定しちゃいますから、「すごいのかもしれないが、面白いかどうかは微妙」という先鋭的な作品が出来やすいです。逆の話、面白くあろうとすれば、ある程度似通うのは避けられません。


当たり前の話ですが、要するにほどよいバランスが重要なわけで、新たな要素の刺激を持ちつつ、面白さのフォーマットは、伝統的なものをしっかり踏襲、というのが、受ける作品の要素です。


で、オタクというのは、新しい技術が大好きなのと同じくらいに、この伝統的なフォーマットが大好きです*1
評論家的な先鋭性「だけ」を評価するのは、むしろオタクの堕落だと個人的には思っています。

*1:宇宙戦艦ヤマト」のストーリーがアナクロだとか、「トップをねらえ!」もそうだとか、今も昔も戦隊物の人気はあるとか。