実例・吸血鬼物の創作

http://d.hatena.ne.jp/n_euler666/20080308/1204976477
こちらでコメント欄で議論していていい加減、頭が痛くなってきたので、例題として。
月姫」とか「羊のうた」とか忘れて。
「旧家」+「吸血鬼」テーマで、一本、作品を作ろうと考えてみよう。

主人公

まず主人公である。主人公は吸血鬼の事情について詳しいか否か。
デフォルトでは、否、で、ある。
現代伝奇物において、伝奇関連の設定、例えば、吸血鬼が存在する理由を語る場合、結構な量の設定が必要になる。それらの設定を、少しずつ、噛み砕いて読者に説明するには、「何もしらない主人公が徐々に学んでゆく」というのが一番便利である。読者と主人公の知識を同じにすることで、感情移入がたやすくなる。


吸血鬼物に限らず、現代伝奇もので、主人公が、裏世界事情に最初から詳しい話は圧倒的に少ない。
あるとすると、まず、コメディ系。「僕の家族は、化け物一家!」みたいなパターンだ。この場合「そーゆー世界観」ということで、細かい設定をする必要がない。変化球として、コメディ系として始まってストーリーが進むに連れ、シリアス要素が増してくるというタイプがある。
あるいは主人公が探偵などの裏社会との接点役で、事情を知らない依頼人に説明してゆく、というパターンもある。ただ、こうした作品は、主人公にストレートに感情移入する作品でないため、群像劇になりやすい。ラノベ/青少年向け漫画/エロゲの王道は、主人公に感情移入させるタイプである。
対象層を少年に取るなら、「巻き込まれ主人公が徐々に知ってゆく」タイプがメインだろう。


主人公は吸血鬼であるかどうか?
主人公は、何か、特殊な設定を持っているというのが、これまた少年向けの王道である。吸血鬼物であるなら、同系統の力を持っているのが普通だろう。
旧家という設定を生かすなら、主人公は旧家の血を引いており、さっきと合わせて、まだ覚醒していない吸血鬼でもある、とするのが、デフォルトとなるだろう。

旧家と吸血鬼

さて、旧家、家のつながりをメインにするなら、ヒロインは家族であるべきである。母親というのはマニアックなので、姉妹が無難だろう。
さて、旧家のデフォは、代々怪死であり、吸血鬼のデフォは不老不死である。
どっちを取るべきか?
不老不死テーマの場合、長い時を生きた吸血鬼ヒロインを出して、時間や生死観の違いを描くことで面白さを作る。月姫で言うなら、アルクやシエルである。逆に言うと、単に不老不死である、というだけなら、不老不死にする必然はない。


今回の場合、先ほど決めた通り、メインヒロインは姉妹である。実の姉や妹が、実は千歳の吸血鬼、という設定はアリだが、ちょっとトリッキーだろう。
デフォでいくなら、姉妹は、それほど年の差はない。よって、吸血鬼を不老不死にする必然もない。
逆に、旧家で、かつ、代々不老不死とした場合、一族全員が、ずっと昔から生きてることになって、結構面倒になる。父親も祖父も曾祖父も曾曾祖父も全部生きてました……というのは、シリアスに設定に組み込むのは大変だ。
不老不死にもかかわらず、それらが死ぬ必然性があるなら、結局、早死設定と変わらなくなる。

学校

話の全部を旧家の中だけで進めようとすると、重苦しい話になる。
解放された、日常的な部分があったほうがエンターテイメントとしていいし、旧家の暗さ、閉鎖性を描くためにも、日常描写は必要である。
日常描写のデフォが学園であるのは言うまでもないだろう。

ヒロイン

これまでの設定で、旧家=異界ヒロインが存在するのは決定。
人間関係は、一対一だと話が展開しにくい。三角関係以上にするのが基本。
主人公+男ライバル+ヒロインと、主人公+ヒロイン1+ヒロイン2。バトル要素メインなら前者だが、恋愛要素メインなら後者。もちろん、4人にして両方、あるいは、それ以上いれてもいい。
吸血鬼における吸血が性交のメタファーというのを持ち出すまでもなく、姉妹が吸血鬼、という話なら、恋愛要素が相応に重要となる。
というわけで、ヒロインがもう一人必要となる。二人ヒロインの場合、それぞれの性格が対称的なのがデフォ。旧家のお嬢様と対照的なヒロインは、日常性を感じさせる、明るくておっちょこちょいというあたりがこれまたデフォ。出会う場所は、日常の象徴である、主人公の学園が良いだろう。


異界は混ざらないから異界なのである。異界ヒロインと日常ヒロインが、しょっちゅう顔を合わせていると、緊張感がそがれ、コメディ的な展開になる。シリアス展開でいく場合、異界ヒロインと日常ヒロインが、なるべく出会わないのが望ましい。
出会わない方法論としては学年を変える、違う学校にする、(病弱などで)学校に通ってない等がデフォだろう。

結論

「吸血鬼」+「旧家」でデフォの設定を積み重ねてゆくと、「月姫」と「羊のうた」の基本設定ができあがる。逆に言うと、両作品とも、基本設定だけなら、普通の物書きなら、誰でも思いつくもの、ということになる。
両作品が優れているのは、その基本設定からの発展のさせかたであり、その部分においては「月姫」と「羊のうた」は、全く違う。
いや当たり前のことだけど、確認までに。