全ての知識はつながっている

知ってれば知ってるだけ面白いが、だからといって、別に全部つなげる必要はない


或いはエロゲとSFと両方が好きな世代として一言。

昔の世代のグラウンド

http://d.hatena.ne.jp/Lobotomy/20080509/p1

 運動部で例えると、練習する前に基礎体力向上の為に、グラウンドを10周ぐらいするものだと思うのですが、それが今ではグラウンドを100周ぐらいしなくてはいけない状況になってしまった。あるいは、10周するグラウンドの広さが10倍になったでも良いんですけど。 

 こうしてアーカイブが増大してしまった今、岡田先生が言うようなオタクになるのは現在において、ほぼ不可能なはずなのですが、岡田先生はその不可能性には目をつぶって「俺達は出来た! なのに若い奴らが出来ないのは『萌え萌え』言って根性が足りないからだ!」の一点張りです。

いやー、旧世代オタクだって、わりとグラウンド100周状態でしたよ?
SFと名のつくもの全部読んで、ペリー・ローダン全部読んで、あらゆるアニメ特撮を過去現在に至るまでフォローして脚本をフォローして作画をフォローして科学考証をフォローすることが要求され……。


ただまぁ、旧世代オタクは求道者だったから、それが全部できた、なんてことはないです。
時折、化け物はもちろんいましたが、基本は、全部のジャンルを完全に極めてる人はおらず、たいていのオタクは、薄く広く調べつつ自分の専門範囲も持っていたわけです。
そのへんは、今と変わりませんね。


そして、自分の得意範囲にカコつけて「おいおい、こんなことも知らないのか? グラウンド10周!」みたいな先輩が多かった、というだけの話です。良く言うなら、そういう風に全部をカバーできる知識人が、一個の理想としてあったとも言えたでしょう。


グラウンドの広さは、理論上は、過去から現在に向けて、どんどん広くなっているのでしょう。
とはいえ世代ごとに流行廃りがあるわけで、岡田斗司夫の世代でも「オタクなら立川文庫を全部読んで当然!」とか言われることはなかったでしょう。
そういう意味じゃ、メインとなるグラウンドの広さは、昔も今もそんなに変わっていないと思います。


今のオタクのカバーしているグラウンドが昔より狭くなったか、というと、俺は、必ずしもそうは思いません。
「SFをカバーしてないからグラウンドが狭い」っていうのは、単に、その人の了見が狭いだけです。
一方で、「グラウンドは狭くたっていいんだ」みたいな開き直りが、もし、あるとすると、ちょっと悲しくなります。

そのグラウンドは新しいか?

世代交代することで、重要な中心は変わってゆきます。
ある世代にとって重要なものが、別の世代にとってはどうでもいい。
そこにおいて、過度な押しつけは、野暮というものです。
とはいえ、あらゆるジャンルは先行するジャンルに影響を受けていることも否定できません。

 ところが、ある時、上の連中が全く知らないジャンルがオタク界に台頭してきました。

 それがエロゲーです。ここで言うエロゲーというのは、MS-DOS時代とかはすっ飛ばして、『雫』から始まったビジュアルノベル以降のものを指します。

というわけで、すいませんが、上の連中として、うるさいことを言います。
ビジュアルノベルの系譜を語る場合、野々村や河原崎が欠かせないことは既に言われていますね。パラグラフ小説としてはゲームブックも文脈だ。ストーリーで語る場合、雫とオーケンが切り離せないのは言うまでもなく、YU-NOを語るなら各種SF小説がバックボーンとなる。
結局、新ジャンルだからといって、先行ジャンルの知識不要で語っていいか、というと、必ずしもそうではないんですよ。


どんなジャンルも、人間の知識の営みである限り、単独で生まれはしません。

 さて、今、僕の手元に『美少女ゲームの臨界点+1』という、当時のこの手の論壇の精鋭が書いたエロゲーレビュー集らしき本があります。

この本を読んだ俺の感想が、「おまえらグラウンド50周!」だったなぁ。


まぁさておいて。


先行するジャンルについての言及が、必ずあるべきだ、というのは、押しつけです。
一方で、過去は全部切り捨てる!、というのも、悲しい話です。


エロゲとSFを絡めることもできる。エロゲと80年代ジャンプを絡めることもできる。エロゲと滝沢馬琴をからめることもできる。エロゲとディケンズを絡めることもできる。云々かんぬん。


要は、エロゲとSFを絡めて、面白い話、面白いと思わせる話が出来るかどうかが重要なのであって。
それを聞いて、お、そんなに面白いなら、俺もSFを読まなきゃ、とか思わせられるかが重要なのであって。
「SFも読まずにエロゲを語るなバカ!」という人がいたとしたら、それだけ面白い論考を書けない老害の繰り言ではないかと思うのです。
勉強不足!とか言う前に、勉強したくなるような面白さについて語ろうぜ、と、いうわけですね。


一方で、過去との断絶ばかり強調するのも、自分の無知を開き直りにするようで、よろしくない。新しい知識が過去の財産に成り立っていることを知って、謙虚に語ろうという姿勢も必要でしょう。


マチュアなら、それくらいでいいと思います。
※プロのライターならともかく。